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最高裁判所第三小法廷 昭和30年(オ)561号 判決

主文

原判決中、上告人の被上告人に対する東京都北区十条仲原二丁目九番地家屋番号同町七六〇番三、木造瓦葺平家建住家一棟建坪七坪七合五勺の所有権確認請求につき上告人の控訴を棄却した部分に対する上告を棄却する。

原判決中前項の部分を除くその他の部分を破棄する。

被上告人は、第一項の建物につき東京法務局北出張所昭和二七年九月二二日受付第一四二二九号をもつてなされた同年同月二〇日売買予約による被上告人のための所有権移転請求権保全の仮登記および同年一〇月二三日受付第一六〇〇五号をもつてなされた同年同月二〇日売買による被上告人のための所有権取得登記の各抹消登記手続をせよ。

訴訟費用は第一、二、三審を通じ被上告人の負担とする。

理由

上告代理人岸野順二の上告理由について。

所有権移転請求権保全の仮登記は本登記のために順位を保存する効力を有するものであつて、仮登記権利者が本登記をなすに必要な要件を具備するに至つたときは、仮登記後本登記をするまでに、仮登記義務者により本登記の目的たる権利と相容れない処分が行われ、これに基く第三者の権利取得の登記がなされた場合においても、仮登記権利者は仮登記義務者に対し本登記を請求することを妨げるものではなく、又第三取得者に対しては、その権利取得を否認しその登記の抹消を請求し得るものと解するを相当とする。けだし、仮登記義務者は、仮登記があつた後においては、仮登記権利者の権利行使を妨げない限度においてのみ処分行為を許されているのであり、従つて仮登記権利者が、仮登記義務者に対し本登記の請求をなし得る関係においては、仮登記義務者は依然登記名義人の地位に在るものと解すべきであり、又第三取得者は、仮登記権利者に対し、本登記の目的たる権利と相容れない限度においてその権利取得を主張し得ないものと解すべきだからである。

原判決認定の事実によれば、上告人は昭和二七年六月四日五十嵐新に対し金三万五千円を弁済期同年七月四日期限後は日歩三〇銭の損害金を支払う約で貸与し、右五十嵐新は右債務を担保するため、その所有にかかる本件建物につき第一順位の抵当権を設定すると共に期限に弁済しないときは右建物を代物弁済としてその所有権を上告人に移転すべき旨を約し、上告人は同年六月五日東京法務局北出張所受付第七九四二号をもつて右代物弁済契約による所有権移転請求権保全の仮登記を了したところ、他方、被上告人は右建物につき同年九月二二日同出張所受付第一四二二九号をもつて同月二〇日前記五十嵐新との間の売買予約による所有権移転請求権保全の仮登記を経由した上、同年一〇月二三日同出張所受付第一六〇〇五号をもつて同月二〇日売買による所有権移転登記を了した後、同年一〇月二九日上告人は前記五十嵐新が弁済期に債務を弁済しないので同人に対し前記代物弁済契約上の権利を行使し本件建物の所有権を代物弁済として取得する旨の意思表示をしたというのである。

このような事実関係の下において、先に所有権移転請求権保全の仮登記を了した上告人は、仮登記義務者たる五十嵐新に対し本登記手続を求めると同時に、第三取得者たる被上告人に対しては、上告人の仮登記後における被上告人のための前記仮登記およびこれに基く本登記の各抹消を求め得るものといわなければならない。然るに原判決が上告人の右五十嵐に対する請求のみを容認し、被上告人に対する登記抹消の請求についてはその引用する第一審判決の理由によつて排斥したのは仮登記の効力についての解釈を誤つた違法があることを免れない。しかし、原判決中仮登記は本登記によつて始めて生ずる対抗力を遡及せしめる効力あるに止り、本登記のような対抗力を有するものではないとして、上告人の被上告人に対する本件家屋所有権確認の請求を排斥した第一審判決を維持した部分は相当と認められるから、この部分に対する上告を棄却し、原判決中右の部分を除くその他の部分を破棄すべきものとし、この部分については原審が確定した事実に基き裁判をなすに熟するものと認め、被上告人に対し本件家屋についての前記仮登記およびこれに基く本登記の抹消を求める上告人の請求を正当とし、民訴四〇八条、三九六条、三八四条、九六条、八九条、九二条を適用し裁判官全員一致の意見をもつて主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小林俊三 裁判官 島 保 裁判官 垂水克己)

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